熱力学の解答付き演習

断熱圧縮:緩やかな場合と急激な場合

演習 24 · レッスン 5 — 理想気体への応用

  • 断熱圧縮
  • 可逆過程
  • 不可逆過程
  • 一定外圧
  • 仕事

問題

この演習は単なる有名な定番問題ではない。可逆過程と不可逆過程の 相違の一つを示すうえでも基本的な演習である(第6課も参照)。

理想気体 モルを考える。この気体の熱容量は一定で,その比は である。気体は断熱された鉛直なシリンダー内に 封入されている。シリンダーの断面積は で, 質量を無視できる断熱ピストンによって閉じられており,ピストンは 摩擦なく動く。外界は大気圧 にあり,この圧力がピストンの上面に 作用する。したがって初期平衡状態では気体の圧力も であり, その状態は

総質量 の追加荷重を用意する。これをすべてピストン上に載せると, 外圧は

となる。二つの実験を比較する。一方では質量 を多数の小さな質量に 分け,新たな平衡に達するのをその都度待ちながら一つずつ加える。他方では 質量 の全体を一度に載せる。 次に,同じ二通りの方法で追加荷重を取り除く。すなわち,砂粒を一粒ずつ 取り除くか,またはすべてを一度に取り除く。

二つの実験は,中央に示した同じ初期状態 A から出発する。このとき ピストンには大気圧 P_0 のみが作用している。左では,総質量 M の 追加荷重を砂粒ごとに載せるため,P_ ext は徐々に増加する。同じ 方法で取り除けば,経路を逆向きにたどる。右では,同じ質量 M を一度に 載せるため,P_ ext は P_0 から P_1 へ急激に変化する。 どちらの圧縮実験でも,P_1=P_0+Mg/ S=xP_0 である。
図 1. 二つの実験は,中央に示した同じ初期状態 から出発する。このとき ピストンには大気圧 のみが作用している。左では,総質量 の 追加荷重を砂粒ごとに載せるため, は徐々に増加する。同じ 方法で取り除けば,経路を逆向きにたどる。右では,同じ質量 を一度に 載せるため, は から へ急激に変化する。 どちらの圧縮実験でも, である。
  1. 追加荷重を非常にゆっくり加え,外圧を から まで 緩やかに変化させる。各瞬間に気体の圧力 が外圧 に等しいことを説明せよ。このとき,気体の相次ぐ状態を 関係づけるためにどの法則を用いることができるか。そこから ,, を と の関数として求めよ。
  2. 今度は状態 から出発し,外圧が再び になるまで, 追加荷重を砂粒ごとに非常にゆっくり取り除く。前問と同じ法則を用いて, 気体が初期状態 に厳密に戻ることを示せ。
  3. 再び から出発し,今度は質量 を一度に載せる。外圧は 急激に一定値 となる。終状態 を完全に決定し,さらに ,, を求めよ。
  4. まず , の例について, と を 数値的に比較せよ。次に任意の と について解析的に 比較し,さらに と を比較せよ。どちらの圧縮のほうが 気体をより高温にし,どちらのほうがより強く圧縮するか。
  5. から追加荷重を一度にすべて取り除くと,外圧は再び 大気圧 となる。終状態 を求めよ。 と がそれぞれの初期値より大きいか小さいかを示せ。
  6. 往復過程 のエネルギー収支を求めよ。 この比較に第6課で何が付け加わるかを説明せよ。

ヒント

ヒント
急激な過程については, を用い,状態方程式は初期と最終の 平衡状態に対してのみ用いる。 と を比較するには, 比 の対数を調べるとよい。

詳しい解答

解答
であることを確認しておく。 問1。 追加荷重を十分に小さな質量に分け,次の質量を加える前に その都度新たな平衡に到達させる。そのため,気体は平衡状態の連続的な 列を経て変化する。すなわち,この過程は準静的である。 ピストンの質量は無視でき,摩擦もないので,各瞬間の力学的平衡から ,すなわち が得られる。 壁は断熱されているので, である。したがって,この条件では ラプラスの法則を用いることができる。 と の間で有用な二つの形は

なので,第一の関係式から直接 が得られ,第二の関係式から が得られる。したがって, ,, である。

問2。 追加荷重をゆっくり取り除く間,気体は外界との 力学的平衡を保ち,同じラプラス断熱曲線を逆向きにたどる。最後には となる。ラプラスの関係式より

および

したがって,気体は状態 に厳密に戻る。 同じ平衡状態の列を通りながら,過程をどちらの向きにもたどることが できる。このような過程を可逆過程という。

問3。 ラプラスの法則を用いてはならない。この急激な過程では, 気体は平衡状態の列を経て変化しないからである。変化の途中で仕事に 関与するのは,一定の外圧 だけである: 。 最終平衡状態では である。 ,,, を用いると,熱力学第一法則より

ここで

とおく。このとき

問4。 まず , の例を考える。緩やかな 圧縮では であるのに対し,急激な 圧縮では

この例では,急激な圧縮のほうが気体をより高温にする。これが一般に 成り立つことを示そう。次のようにおく:

であり,

かつ ならば,分母のすべての因子は正であり, である。したがって なので, ,すなわち である。 二つの状態の圧力は同じ であるから,理想気体の状態方程式より も成り立つ。 急激な圧縮のほうが気体をより高温にするが,圧縮の程度は緩やかな 圧縮のほうが大きい。

問5。 追加荷重を急に取り除くと,外圧は から へ変化する。したがって問3の計算で,圧力比 を その逆数 に置き換えればよい。 これにより,問3の結果は

となる。ここで

とおくと,

一方,

考えている範囲では なので であり, である。また だから,確かに となる。 したがって,

外圧を往復させた後も,気体は状態 に戻らない。このずれは 不可逆性を示す最初の兆候である。外部拘束を初期値に戻すだけでは, 系を初期状態に戻すには不十分である。

問6。 急激な膨張は断熱過程である。したがって,往復過程全体では

外部操作によって圧力は初期値に戻るが,気体は正味の仕事を受け取っており, 初期状態よりも高温で,体積も大きいままである。第6課では同じ状態を 改めて取り上げ,可逆圧縮ではエントロピーが生成されないのに対し, 二つの急激な過程ではいずれもエントロピーが生成されることを示す。