熱力学の解答付き演習

断熱圧縮:緩やかな場合と急激な場合

演習 16 · レッスン 5理想気体への応用

  • 断熱圧縮
  • 可逆過程
  • 不可逆過程
  • 一定外圧
  • 仕事

問題

この演習は単なる有名な定番問題ではない。可逆過程と不可逆過程の 相違の一つを示すうえでも基本的な演習である(第6課も参照)。

理想気体 nn モルを考える。この気体の熱容量は一定で,その比は γ=cP/cV>1\gamma=c_P/c_V>1 である。気体は断熱された鉛直なシリンダー内に 封入されている。シリンダーの断面積は S\mathcal S で, 質量を無視できる断熱ピストンによって閉じられており,ピストンは 摩擦なく動く。外界は大気圧 P0P_0 にあり,この圧力がピストンの上面に 作用する。したがって初期平衡状態では気体の圧力も P0P_0 であり, その状態は

A=(P0,V0,T0).A=(P_0,V_0,T_0).

総質量 MM の追加荷重を用意する。これをすべてピストン上に載せると, 外圧は

P1=P0+MgS=xP0,x>1.P_1=P_0+\frac{Mg}{\mathcal S}=xP_0, \qquad x>1.

となる。二つの実験を比較する。一方では質量 MM を多数の小さな質量に 分け,新たな平衡に達するのをその都度待ちながら一つずつ加える。他方では 質量 MM の全体を一度に載せる。 次に,同じ二通りの方法で追加荷重を取り除く。すなわち,砂粒を一粒ずつ 取り除くか,またはすべてを一度に取り除く。

二つの実験は,中央に示した同じ初期状態 A から出発する。このとき ピストンには大気圧 P_0 のみが作用している。左では,総質量 M の 追加荷重を砂粒ごとに載せるため,P_ ext は徐々に増加する。同じ 方法で取り除けば,経路を逆向きにたどる。右では,同じ質量 M を一度に 載せるため,P_ ext は P_0 から P_1 へ急激に変化する。 どちらの圧縮実験でも,P_1=P_0+Mg/ S=xP_0 である。
図 1. 二つの実験は,中央に示した同じ初期状態 AA から出発する。このとき ピストンには大気圧 P0P_0 のみが作用している。左では,総質量 MM の 追加荷重を砂粒ごとに載せるため,PextP_{\mathrm{ext}} は徐々に増加する。同じ 方法で取り除けば,経路を逆向きにたどる。右では,同じ質量 MM を一度に 載せるため,PextP_{\mathrm{ext}}P0P_0 から P1P_1 へ急激に変化する。 どちらの圧縮実験でも,P1=P0+Mg/S=xP0P_1=P_0+Mg/\mathcal S=xP_0 である。
  1. 追加荷重を非常にゆっくり加え,外圧を P0P_0 から P1P_1 まで 緩やかに変化させる。各瞬間に気体の圧力 PP が外圧 PextP_{\mathrm{ext}} に等しいことを説明せよ。このとき,気体の相次ぐ状態を 関係づけるためにどの法則を用いることができるか。そこから PB/P0P_B/P_0TB/T0T_B/T_0VB/V0V_B/V_0xxγ\gamma の関数として求めよ。
  2. 今度は状態 BB から出発し,外圧が再び P0P_0 になるまで, 追加荷重を砂粒ごとに非常にゆっくり取り除く。前問と同じ法則を用いて, 気体が初期状態 AA に厳密に戻ることを示せ。
  3. 再び AA から出発し,今度は質量 MM を一度に載せる。外圧は 急激に一定値 P1P_1 となる。終状態 BB' を完全に決定し,さらに WABW_{AB'}QABQ_{AB'}ΔUAB\Delta U_{AB'} を求めよ。
  4. まず γ=5/3\gamma=5/3x=2x=2 の例について,TBT_{B'}TBT_B を 数値的に比較せよ。次に任意の γ>1\gamma>1x>1x>1 について解析的に 比較し,さらに VBV_{B'}VBV_B を比較せよ。どちらの圧縮のほうが 気体をより高温にし,どちらのほうがより強く圧縮するか。
  5. BB' から追加荷重を一度にすべて取り除くと,外圧は再び 大気圧 P0P_0 となる。終状態 B"B" を求めよ。TB"T_{B"}VB"V_{B"} がそれぞれの初期値より大きいか小さいかを示せ。
  6. 往復過程 ABB"A\to B'\to B" のエネルギー収支を求めよ。 この比較に第6課で何が付け加わるかを説明せよ。

ヒント

ヒント
急激な過程については, W=Pext(VfVi)W=-P_{\mathrm{ext}}(V_f-V_i) を用い,状態方程式は初期と最終の 平衡状態に対してのみ用いる。BBBB' を比較するには, 比 TB/TBT_{B'}/T_B の対数を調べるとよい。

詳しい解答

解答
cV=Rγ1c_V=\frac{R}{\gamma-1} であることを確認しておく。

問1。 追加荷重を十分に小さな質量に分け,次の質量を加える前に その都度新たな平衡に到達させる。そのため,気体は平衡状態の連続的な 列を経て変化する。すなわち,この過程は準静的である。 ピストンの質量は無視でき,摩擦もないので,各瞬間の力学的平衡から PS=PextSP\mathcal S=P_{\mathrm{ext}}\mathcal S,すなわち P=PextP=P_{\mathrm{ext}} が得られる。 壁は断熱されているので,δQ=0\delta Q=0 である。したがって,この条件では ラプラスの法則を用いることができる。AABB の間で有用な二つの形は

P0V0γ=PBVBγ,T0γP01γ=TBγPB1γ.P_0V_0^\gamma=P_BV_B^\gamma, \qquad T_0^\gamma P_0^{1-\gamma}=T_B^\gamma P_B^{1-\gamma}.

PB=P1=xP0P_B=P_1=xP_0 なので,第一の関係式から直接 VB/V0=x1/γV_B/V_0=x^{-1/\gamma} が得られ,第二の関係式から TB/T0=x(γ1)/γT_B/T_0=x^{(\gamma-1)/\gamma} が得られる。したがって, PB/P0=xP_B/P_0=xTB/T0=x(γ1)/γT_B/T_0=x^{(\gamma-1)/\gamma}VB/V0=x1/γV_B/V_0=x^{-1/\gamma} である。

問2。 追加荷重をゆっくり取り除く間,気体は外界との 力学的平衡を保ち,同じラプラス断熱曲線を逆向きにたどる。最後には Pf=P0P_f=P_0 となる。ラプラスの関係式より

Tf=TB(P0P1)(γ1)/γ=T0x(γ1)/γx(γ1)/γ=T0,T_f =T_B\left(\frac{P_0}{P_1}\right)^{(\gamma-1)/\gamma} =T_0x^{(\gamma-1)/\gamma}x^{-(\gamma-1)/\gamma} =T_0,

および

Vf=VB(P1P0)1/γ=V0x1/γx1/γ=V0.V_f =V_B\left(\frac{P_1}{P_0}\right)^{1/\gamma} =V_0x^{-1/\gamma}x^{1/\gamma} =V_0.

したがって,気体は状態 A=(P0,V0,T0)A=(P_0,V_0,T_0) に厳密に戻る。 同じ平衡状態の列を通りながら,過程をどちらの向きにもたどることが できる。このような過程を可逆過程という。

問3。 ラプラスの法則を用いてはならない。この急激な過程では, 気体は平衡状態の列を経て変化しないからである。変化の途中で仕事に 関与するのは,一定の外圧 P1P_1 だけである: WAB=P1(VBV0)W_{AB'}=-P_1(V_{B'}-V_0)。 最終平衡状態では PB=P1P_{B'}=P_1 である。 P0V0=nRT0P_0V_0=nRT_0P1VB=nRTBP_1V_{B'}=nRT_{B'}QAB=0Q_{AB'}=0ΔUAB=ncV(TBT0)\Delta U_{AB'}=nc_V(T_{B'}-T_0) を用いると,熱力学第一法則より

TB=T01+(γ1)xγ.T_{B'}=T_0\frac{1+(\gamma-1)x}{\gamma}.

ここで

θ=1+(γ1)xγ.\theta=\frac{1+(\gamma-1)x}{\gamma}.

とおく。このとき

PB=xP0,TB=θT0,VB=θxV0.P_{B'}=xP_0, \qquad T_{B'}=\theta T_0, \qquad V_{B'}=\frac{\theta}{x}V_0.

問4。 まず γ=5/3\gamma=5/3x=2x=2 の例を考える。緩やかな 圧縮では TB/T0=22/51,32T_B/T_0=2^{2/5}\simeq1{,}32 であるのに対し,急激な 圧縮では

TB/T0=θ=[1+(2/3)×2]/(5/3)=7/5=1,40.T_{B'}/T_0=\theta=[1+(2/3)\times2]/(5/3)=7/5=1{,}40.

この例では,急激な圧縮のほうが気体をより高温にする。これが一般に 成り立つことを示そう。次のようにおく:

f(x)=ln ⁣(TBTB)=ln ⁣(1+(γ1)xγ)γ1γlnx.f(x)=\ln\!\left(\frac{T_{B'}}{T_B}\right) =\ln\!\left(\frac{1+(\gamma-1)x}{\gamma}\right) -\frac{\gamma-1}{\gamma}\ln x.

f(1)=0f(1)=0 であり,

f(x)=γ11+(γ1)xγ1γx=(γ1)(x1)γx[1+(γ1)x]f'(x) =\frac{\gamma-1}{1+(\gamma-1)x} -\frac{\gamma-1}{\gamma x} =\frac{(\gamma-1)(x-1)} {\gamma x\,[1+(\gamma-1)x]}

γ>1\gamma>1 かつ x>1x>1 ならば,分母のすべての因子は正であり, f(x)>0f'(x)>0 である。したがって f(x)>f(1)=0f(x)>f(1)=0 なので, TB/TB>1T_{B'}/T_B>1,すなわち TB>TBT_{B'}>T_B である。 二つの状態の圧力は同じ P1P_1 であるから,理想気体の状態方程式より VB>VBV_{B'}>V_B も成り立つ。 急激な圧縮のほうが気体をより高温にするが,圧縮の程度は緩やかな 圧縮のほうが大きい。

問5。 追加荷重を急に取り除くと,外圧は P1P_1 から P0=P1/xP_0=P_1/x へ変化する。したがって問3の計算で,圧力比 xx を その逆数 1/x1/x に置き換えればよい。 これにより,問3の結果は

TB"TB=1+(γ1)P0/P1γ=1+(γ1)/xγ.\frac{T_{B"}}{T_{B'}} =\frac{1+(\gamma-1)P_0/P_1}{\gamma} =\frac{1+(\gamma-1)/x}{\gamma}.

となる。ここで

φ=1+(γ1)/xγ,\phi=\frac{1+(\gamma-1)/x}{\gamma},

とおくと,

PB"=P0,TB"=θφT0,VB"=θφV0.P_{B"}=P_0, \qquad T_{B"}=\theta\phi\,T_0, \qquad V_{B"}=\theta\phi\,V_0.

一方,

θφ1=γ1γ2(x+1x2).\theta\phi-1 =\frac{\gamma-1}{\gamma^2} \left(x+\frac1x-2\right).

考えている範囲では x>1x>1 なので x>0x>0 であり, x+1/x2=(x1)2/x>0x+1/x-2=(x-1)^2/x>0 である。また γ>1\gamma>1 だから,確かに θφ1>0\theta\phi-1>0 となる。 したがって,

TB">T0,VB">V0.\boxed{T_{B"}>T_0}, \qquad \boxed{V_{B"}>V_0}.

外圧を往復させた後も,気体は状態 AA に戻らない。このずれは 不可逆性を示す最初の兆候である。外部拘束を初期値に戻すだけでは, 系を初期状態に戻すには不十分である。

問6。 急激な膨張は断熱過程である。したがって,往復過程全体では

Qtot=0,Wtot=ΔUtot=ncVT0(θφ1)>0.Q_{\mathrm{tot}}=0, \qquad W_{\mathrm{tot}}=\Delta U_{\mathrm{tot}} =nc_VT_0(\theta\phi-1)>0.

外部操作によって圧力は初期値に戻るが,気体は正味の仕事を受け取っており, 初期状態よりも高温で,体積も大きいままである。第6課では同じ状態を 改めて取り上げ,可逆圧縮ではエントロピーが生成されないのに対し, 二つの急激な過程ではいずれもエントロピーが生成されることを示す。